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大阪地方裁判所 昭和49年(わ)472号 判決

(一)本店所在地

大阪府和泉市和気町六三一番地

商号

辻本株式会社

代表者氏名

辻本吉夫

(二)本籍

大阪府和泉市和気町六三一番地

住居

右同所

職業

会社役員

氏名

辻本吉夫

生年月日

昭和二年三月二四日

右両名に対する各法人税法違反被告事件につき、当裁判所は、検察官藤本徹出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人辻本株式会社を罰金五〇〇万円に、被告人辻本吉夫を懲役六月にそれぞれ処する。

被告人辻本吉夫に対しこの裁判確定の日から二年間その刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人辻本株式会社は、大阪府和泉市和気町六三一番地に本店をおき、セーターの製造販売業を営むもの、被告人辻本吉夫は、同会社の代表取締役としてその業務全般を統括しているものであるが、被告人辻本吉夫は、同会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、

第一  昭和四五年六月一日から同四六年五月三一日までの事業年度において、その所得金額は二七、二九三、九八八円で、これに対する法人税額は九、七三八、六〇〇円であるのにかかわらず、公表経理上売上げ・期末たな卸の一部を除外し、架空仕入を計上して、これによつて得た資金を架空名義の定期預金にするなどの行為により、右所得金額中一七、四三七、五七五円を秘匿したうえ、同四六年七月三一日泉大津市二田町一丁目一五番地の二七所在泉大津税務署において、同税務署長に対し、右事業年度の所得金額は九、八五六、四一三円で、これに対する法人税額は三、三三〇、五〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もつて不正の行為により法人税六、四〇八、一〇〇円を免れ、

第二  同四六年六月一日から同四七年五月三一日までの事業年度において、その所得金額は四七、七九〇、九八五円でこれに対する法人税額は一七、〇一七、七〇〇円であるのにかかわらず、前同様の行為により、右所得金額中三五、二九五、八八九円を秘匿したうえ、同四七年七月二九日前記泉大津税務署において、同税務署長に対し、右事業年度の所得金額は一二、四九五、〇九六円で、これに対する法人税額は四、〇四六、八〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もつて不正の行為により法人税一二、九七〇、九〇〇円を免れたものである。

(証拠の標目)

判示全事実につき

一、 登記官中村健三作成の登記簿謄本

一、 被告会社作成の証明書(定款写添付)

一、 次の者に対する収税官吏作成の各質問てん末書

辻本澄子、辻本巖、中塚元三、長谷川崇、友谷弘文(昭和四八年七月二六日付)、

中村通宏、戎野忠夫、田中富治、松野四郎

一、 長谷川崇、沢田隆夫の検察官に対する各供述調書

一、 次の者の作成した各確認書

佐藤博、日浦浩次、西原利兵太、岡田健次外一名、田原一(二通)、池平馨

一、 収税官吏作成の「現金預金有価証券等現在高検査てん末書」二通

一、 次の国税査察官作成の調査書

福崎敬学外四名、豊田功(請求番号64の分)

一、 泉州銀行和泉支店作成の回答書

一、 押収にかかる在庫報告書二綴(昭和五〇年押第一六六号の1)

一、 第三回公判調書中の証人辻明夫の供述部分

一、 第四回公判調書中の証人豊田功の供述部分

一、 第五回公判調書中の証人福崎敬学の供述部分

一、 被告人の検察官に対する供述調書二通

一、 被告人に対する収税官吏作成の質問てん末書七通

一、 被告人作成の確認書

判示第一の事実につき

一、 泉大津税務署長作成の証明書(昭和四五年六月一日から始まる事業年度分の確定申告書写添付)

一、 次の者に対する収税官吏作成の各質問てん末書

谷口宣詔、佐藤博、友谷弘文(昭和四八年一一月二一日付)藤木信男、沢田隆夫(昭和四九年一月一〇日付)、大櫃忠、荒居実、

一、 次の者の作成した各確認書

谷口宣詔、呉城景学、森欽弥

一、 日浦浩次作成の供述書

一、 大櫃忠の検察官に対する供述調書

一、 次の国税査察官作成の調査書

福崎敬学、豊田功(請求番号63の分)

一、 矢野一二三作成の報告書

一、 住友銀行和泉支店、泉大津信用金庫泉府中支店作成の各回答書

判示第二の事実につき

一、 泉大津税務署長作成の証明書(昭和四六年六月一日から始まる事業年度分の確定申告書写添付)

一、 次の者に対する収税官吏作成の各質問てん末書

沢田隆夫(昭和四八年七月二六日付)、松原正、吉木康二、吉木美智子、岡暎郎、松永太一

一、 次の者の作成した各確認書

岡暎郎、南吉夫(四通)、南吉夫外一名、川亦正幸、西沢寅吉、中村、林富士夫、佐藤進、金川哲也、徳岡仁美雄、田所正次、堀洋子、奥村昭造

一、 岡本実雄作成の葉書

一、 国税査察官豊田功作成の調査書(請求番号65の分)

(弁護人の主張に対する判断)

一、 棚卸除外高について

弁護人は「被告会社の本件各期首における棚卸除外高は、検察官の主張する額(昭和四五年六月期首において五五、四九八、二三三円、昭和四六年六月期首において五五、一九一、〇一八円)よりも多く、昭和四五年六月期首において八、五〇〇万円、昭和四六年六月期首において七、五〇〇万円であつた」旨主張し、被告人辻本吉夫も第六回公判において「昭和四二年六月に従来の個人営業を法人化した際、簿外とした棚卸高が約一億円あり、これを毎年約一、〇〇〇万円の見当で正規の分に繰り入れ、簿外分を減少させてきて、昭和四五年六月期首には約八、五〇〇万円残つており、昭和四六年六月期首には七、五〇〇万円位になつていた」旨、右主張に沿う供述をしているが、右供述は単に同被告人の記憶のみを根拠として述べられているもので何らこれを裏付けるに足る資料がないから、にわかに採用し難く、却つて、第四回公判調書中の証人豊田功の供述部分、豊田功作成の査察官調査書三通、押収にかかる在庫報告書二綴その他前記証拠標目欄掲記の各証拠を総合すると、本件各期首における被告会社の棚卸除外高は、被告会社に存在した当時の実地棚卸の記録や、各取引先との仕入・売上に関する記録など、客観的な資料に基づいて計算することができ、検察官の主張するとおりの額であることが認められ、被告人辻本の前記供述は到底これを動かすに足りないから、弁護人の右主張は理由がなく、採用することができない。

二、 受取利息について

弁護人は、検察官が被告会社の犯則所得に計上している仮名預金の受取利息のうち、辻公夫、横田良子(但し二口あるうちの一口)、安田広子、吉田房治郎、吉田義一、福西良夫、内海修司、上田信吉の各名義の預金に関する分について、これらの預金はいずれも昭和四二年及び四三年中に預け入れられたもので被告人辻本吉夫個人の預金であるから、その利息は被告会社の所得とはならない旨主張するので検討するに、矢野一二三作成の報告書、泉州銀行和泉支店、住友銀行和泉支店、泉大津信用金庫泉府中支店作成の各回答書、福崎敬学外四名作成の査察官調査書によると、弁護人主張の右各預金は、いずれも被告会社が設立された昭和四二年六月二〇日より後である同年七月一一日から昭和四三年四月一二日までの間に被告人辻本吉夫が架名で預け入れたものである事実が認められるところ、この預け入れた金員の出所に関しては、第六回公判における被告人辻本吉夫の「右の各預金は被告会社設立以前の個人営業当時に売つた製品の代金として会社設立後に支払を受けた金を預け入れたものである」旨の供述があるのみで、これと異つた事情を認定するに足る証拠はないから、一応右供述とおりのものであつたと考えざるを得ないが、他方、収税官吏作成の同被告人に対する各質問てん末書、第六回公判調書中の同被告人の供述部分、その他検察官提出の各証拠を総合すると、同被告人が昭和四二年六月二〇日をもつて被告会社を設立したのは、従来被告人辻本吉夫が個人で行なつてきた事業を法人経営に切替えるためであつて、被告会社の事業と並行して個人としての事業も続け行なつていたものではなく、被告会社の事業の実態は、個人経営の当時と格別変わるところのなかつたものであることが認められるから、被告会社設立の際、被告人辻本吉夫の従来の個人営業に関わりのあるすべての資産・負債は簿外のものも含めて、被告会社に引き継がれたものと解するのが相当である。してみると、被告人辻本が述べているような個人営業時代に発生した売掛代金で、会社設立後に支払いを受けた(約束手形なら、現金化された)分も、個人に留保されたものと認むべき特段の事情のない限り、被告会社に帰属するといわなければならない。そして、本件では右特段の事情はこれを認めることができない。従つてこの点の弁護人の主張も理由がなく、採用することができない。

(法律の適用)

判示各所為は、被告会社の関係ではいずれも法人税法一六四条一項、一五九条、七四条一項二号に、被告人辻本吉夫の関係ではいずれも同法一五九条、七四条一項二号に該当するところ、被告会社の以上の各罪は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四八条二項により所定罰金額を合算した金額の範囲内で被告会社を罰金五〇〇万円に処し、被告人辻本吉夫については判示各罪につきいずれも所定刑中懲役刑を選択し、以上は同法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により犯情の重い判示第二の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で同被告人を懲役六月に処し、同被告人に対し情状により同法二五条一項を適用して裁判確定の日から二年間その刑の執行を猶予し、訴訟費用は、刑事訴訟法一八一条一項本文、一八二条により被告会社及び被告人辻本吉夫に連帯して負担させることとする。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 青野平)

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